本記事は2026年10月29日に、タイトルと冒頭を「伝える側の伝え方」を中心に見直し、伝え方のコツの根拠として厚生労働省の資料を追加しました。原因の説明は短くまとめ直しています。
何度言っても分からないと感じるときは、指示を一つずつ、具体的な言葉で出し、メモやチャットなど目で見える形でも渡すのが基本です。伝えたあとは相手の言葉で復唱してもらって確かめ、感情的に叱る・人前で注意する・「なぜできないの?」と問い詰めるといった対応は避けましょう。
「さっき言ったばかりなのに、もう忘れている」「同じミスを何度も繰り返す」と続くと、伝える側も疲れてしまいます。「私の伝え方が悪いのかな」「相手にやる気がないのでは」と、自分や相手を責めてしまうこともあるかもしれません。
ただし、相手が発達障害かどうかは、周りの人が決められるものではありません。伝わりにくさの理由は、発達障害の特性のほかに、疲れや心の不調、聞こえの問題などのこともあります。何度言っても直らない原因の全体(発達障害か、ほかの理由か)は、何度注意されても治らないのは発達障害?原因と周囲ができる対策で解説しています。
この記事では、伝える側が職場や家庭で使える「伝わる伝え方」(指示の出し方・確認の仕方・避けたい対応・伝える側の疲れとの向き合い方)を、厚生労働省の資料も紹介しながらまとめます。
記事を読むのが面倒な方のために、AIキャスターによる「ポッドキャスト」を作りました。
読み間違いがありますが、ご容赦ください。
▼「伝わらない」を「伝わる」に変える!発達障害のある方とのコミュニケーション5つの脳の特性と明日から使える対応策
【大前提】「わからない」をやる気の問題と決めつけない

まず大切なのは、「わからない」「できない」が続くときに、本人の意欲や性格の問題だと決めつけないことです。
情報の受け取り方の違いが「伝わらない」につながることも
私たちの脳は、情報を受け取り、整理・記憶し、行動に移す一連の働きを担っています。発達障害の特性がある人は、この働きの一部に偏りがあると考えられています。
例えば、
- 情報を一時的に記憶する作業台(ワーキングメモリ)の働き方に特徴がある
- 周りの刺激に注意がそれやすい、または一つのことに集中すると話しかけに気づきにくい
- 聞いた言葉を意味として理解するのに時間がかかる
など、情報の処理の仕方に特徴がある場合があります。そのため、同じように話を聞いても、理解の仕方や覚えている度合いが異なり、「何度言っても伝わらない」と感じる状況が生まれることがあります。怠けや反抗心と決めつける前に、伝え方を変えてみる価値があります。
発達障害の大人に話が伝わりにくい背景|考えられる5つの特性
伝え方を選ぶ手がかりとして、よく挙げられる特性を5つ短く紹介します。どれが当てはまるかは人によって違い、いくつかが重なることも、どれにも当てはまらないこともあります。
原因1:ワーキングメモリの特性|指示を覚えていられない
ワーキングメモリは、作業や考えごとに必要な情報を一時的に覚えておきながら処理する働きで、「脳のメモ帳」に例えられます。この働き方に特徴があると、一度に多くの情報を扱うのが難しくなることがあります(個人差があり、すべての人に当てはまるわけではありません)。
例えば、次のような指示を口頭で一度に受けた場合です。

「A社の件をBさんにメールして、そのあとCの資料を3部コピーして、D会議室に運んでおいて」
最初の作業をしている間に、次以降の指示が抜け落ちてしまうことがあります。
原因2:注意欠如・多動症(ADHD傾向)|話に集中できない
MSDマニュアルが紹介するADHD(注意欠如多動症)の診断基準(DSM-5-TR)には、不注意の症状として「直接話しかけられても聴いていないように見える」「容易に注意をそらされる」などが含まれています(MSDマニュアル プロフェッショナル版「注意欠如多動症(ADHD)」)。話を聞いているように見えても、途中で別のことに気を取られて、内容が頭に入っていないことがあります。
原因3:聴覚情報処理の困難さ|耳からの情報が入りにくい
音は聞こえているのに、言葉の意味がすっと入ってこないという困りごともあります。雑音の多い環境での聞き取りが難しい、聞き返しや聞き誤りが多い、口頭で言われたことを忘れやすいといった場合は、「聞き取り困難症/聴覚情報処理障害(LiD/APD)」と呼ばれる状態が関わっていることもあります(堺市の報道提供資料(2025年5月)より)。
本人は一生懸命聞こうとしていても、聞き逃したり誤解したりすることがあるため、口頭だけで伝えない工夫が役立ちます。
原因4:自閉スペクトラム症(ASD傾向)|抽象的な表現がわからない
ASD(自閉スペクトラム症)について、厚生労働省の資料では「格式張った字義通りの言語」などコミュニケーションの特徴が挙げられています。また、発達障害の人は「抽象的な指示や暗黙の了解、比喩的な表現や皮肉や冗談などの理解が困難な場合がある」ともされています(厚生労働省「(資料5)自閉スペクトラム症に関する資料」)。
例えば、次のような指示です。

「この資料、いい感じにまとめといて。なるべく早くお願い」
このような指示では、「いい感じ」とはどういう状態か、「なるべく早く」とは何時までかが分からず、動けなくなってしまうことがあります。
原因5:実行機能の特性|何から手をつけるべきか迷う
実行機能は、目標に向けて計画を立て、段取りを考え、行動を管理する働きを指す言葉です。ADHDの診断基準にも、不注意の症状として「課題や活動を順序立てることが困難である」が含まれています(MSDマニュアル)。「何をすべきか」は分かっていても、どこから手をつけるか・どのくらい時間がかかるか・優先順位をどうつけるかで迷い、動き出せないことがあります。
原因ごとの詳しい説明や、発達障害以外の理由も含めた考え方は、何度注意されても治らないのは発達障害?原因と周囲ができる対策をご覧ください。
【実践編】「伝わる」伝え方10のコツ|伝える前・伝え方・伝えた後

ここからが、伝える側が使える具体的な工夫です。「伝える前」「伝え方」「伝えた後」の3ステップに分けて紹介します。厚生労働省の資料や、職場での配慮の例を示した国の指針にも、同じ方向の工夫が挙げられています。
伝える前の準備
1. 集中できる環境を整える
テレビがついていたり、周りが騒がしかったりする場所は避けましょう。可能であれば、静かな会議室や一対一になれる空間で話すのが理想です。
2. まずは相手の名前を呼んで注意を引く
いきなり本題から入るのではなく、「〇〇さん、少しよろしいですか?」と名前を呼び、相手がこちらに注意を向けてくれたことを確認してから話し始めましょう。厚生労働省「(資料5)自閉スペクトラム症に関する資料」でも、指示や話しかける場合は「注意がこちらに向いていることを確認し」てから伝えることが挙げられています。
伝え方の工夫
3. 指示は「1つずつ」具体的に
複数の指示を一度に出すのは避け、一つの作業が終わったら次の指示を出すようにしましょう。厚生労働省の合理的配慮指針でも、発達障害のある人への採用後の配慮の例として「業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す」ことが挙げられています。
大きな作業は、手順を細かく分けて渡すと取り組みやすくなります。厚生労働省の資料でも、「課題を細かく分けて一つずつクリアできるように手助けする」スモールステップの支援が、発達障害支援の基本原則の一つとされています。
4. 曖昧な表現を避け、数字や固有名詞を使う
誰が聞いても同じ意味に取れるように、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)や数字を使って伝えます。厚生労働省の資料でも「できるだけ具体的な表現で伝える」ことが挙げられています。「なるべく早く」ではなく「今日の15時までに」、「いい感じに」ではなく「先週の報告書と同じ形式で」のように言い換えましょう。
5. 口頭だけでなく「見える化」する(メモ、チャット、図)
口で伝えるだけでなく、メモに書いて渡したり、ビジネスチャットで送ったりすると、相手はあとから内容を確かめられます。厚生労働省の資料では、広汎性発達障害の特性をもっている人の多くは、ことばでいわれるよりも「視覚的(目で見てわかる)情報の方が理解しやすいといわれている」とされ、作業の手順に番号を振って手順書にまとめる工夫などが紹介されています(広汎性発達障害は、現在の診断基準では自閉スペクトラム症に含まれています:MSDマニュアル プロフェッショナル版「自閉スペクトラム症」)。
合理的配慮指針にも、「作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する」ことが配慮の例として挙がっています。複雑な手順は、図やフローチャートにすると確かめやすくなります。
6. 結論から話し、理由は簡潔に
「まず、〇〇をしてください。理由は〜だからです」というように、最初にやってほしいこと(結論)をはっきり伝えましょう。背景の説明が長いと、何をしてほしいのかが分かりにくくなります。
7. 肯定的な言葉を選ぶ(「~しないで」より「~しよう」)
否定形(~しないで)の指示は、代わりに何をすればよいのかが分かりにくい場合があります。「資料を出しっぱなしにしないで」よりも「使った資料は、棚の青いファイルに戻してください」のように、してほしい行動を具体的に示しましょう。
伝えた後のフォロー
8. 相手の言葉で復唱してもらう
「今お願いしたことを、一度説明してもらえますか?」と促し、相手が正しく受け取れているかを確かめます。ずれていたら、その場で直せます。確認は責めるためではなく、ずれを早く見つけるためだと伝えておくと、相手も答えやすくなります。
9. 途中経過をこまめに確認する
特に時間がかかる作業の場合は、「どこまで進んだ?」「何か困っていることはない?」と途中で声をかけ、軌道修正が必要ないかを確認しましょう。
10. できたことを具体的に褒める
指示どおりにできたときは、「〇〇の資料、指示どおりに作ってくれてありがとう。助かったよ」のように、何がよかったかを具体的に伝えましょう。厚生労働省の資料でも、本人が成功体験をし、「自信をもって物事に取り組めるようにすること」が支援の原則とされています。
【OK/NGコミュニケーション具体例】
| 場面 | NGな伝え方 | OKな伝え方 |
|---|---|---|
| 資料作成 | 「この前の会議の件、いい感じに資料まとめといて」 | 「A会議の議事録を元に、PowerPointで資料を5枚作ってください。期限は明日の15時です」 |
| 来客対応 | 「そろそろお客様が来るから、適当によろしく」 | 「14時にお客様が2名来られます。応接室にお通しして、お茶を出してください」 |
| 清掃 | 「時間あるとき、机の上を片付けといてね」 | 「今日の17時に、机の上にある不要な書類をシュレッダーにかけてください」 |
当事者自身ができるセルフケアと工夫

伝える側の工夫に加えて、本人ができる工夫もあります。本人が自分の特性を知り、道具や頼み方を工夫することで、仕事や生活が進めやすくなることがあります。伝える側から「こんな方法もあるみたい」と一緒に試してみるのもよいでしょう。
1. メモやツールの徹底活用
指示されたことは、その場でメモを取る習慣をつけましょう。スマートフォンのリマインダー機能や、Google Keep、Todoist、Microsoft To Do といったタスク管理アプリを使うのも役立ちます。
2. 事前に質問事項をまとめておく
会議や打ち合わせの前に、議題を確認し、わからないことや確認したいことをリストアップしておくと、話の要点を掴みやすくなります。
3. 自分の特性を周囲に伝える(セルフアドボカシー)
もし可能であれば、「私は口頭での指示が苦手なので、チャットでいただけると助かります」「一度に多くのことを覚えるのが苦手なので、一つずつお願いします」など、信頼できる人に自分の特性と必要な配慮を伝えてみましょう。職場での配慮の頼み方は、発達障害の合理的配慮とは?職場で頼める具体例と伝え方でまとめています。
4. 休息をとり、脳を休ませる
疲れているときは、話を聞いたり覚えたりするのがさらに難しくなりがちです。意識して休憩を取り、情報から離れる時間を作りましょう。
これだけは避けたい!状況を悪化させるNG対応
良かれと思ってやったことが、逆効果になることもあります。次の対応は相手を追い詰めやすく、伝わりやすさにもつながらないので避けましょう。
- 感情的に叱責する
「なんでできないんだ!」と感情的に怒鳴っても、相手は萎縮してしまい、問題解決にはつながりません。 - 大勢の前で注意する
人前での叱責は、自尊心を傷つけてしまうことがあります。強いストレスが続くと、気持ちの落ち込みなど心の不調につながることもあります。 - 過去の失敗を蒸し返す
「前も同じミスをしたよね」と過去のことを持ち出すのはやめましょう。 - 「なぜできないの?」と問い詰める
本人も「なぜできないのか」が分からず、困っていることがあります。原因を問い詰めるのではなく、どうすればできるかを一緒に考えましょう。 - 同じことを、強い口調で何度も繰り返す
伝わらない理由が覚え方や聞き取り方にある場合、言う回数や声の大きさを増やしても伝わりやすくはなりにくいものです。書いて渡す・一つずつ出すなど、伝え方そのものを変えましょう。
【伝える側のあなたへ】自分のためのメンタルケアも忘れずに

ここまで伝える側の工夫についてお話ししてきましたが、工夫や配慮を続けること自体、大きなエネルギーが必要です。あなたが疲弊してしまっては、元も子もありません。
一人で抱え込まず、愚痴を言える場所を持つ
家族や友人、あるいは専門のカウンセラーなど、安心して話せる相手に今の気持ちを話すだけでも、気持ちが少し軽くなることがあります。職場であれば、上司や人事、産業医に相談する方法もあります。家族の立場で心身の不調が続くときは、カサンドラ症候群セルフチェックで今の状態を振り返ることもできます。
完璧を求めすぎない
「自分が何とかしなければ」と気負いすぎないでください。すぐに全てがうまくいくわけではありません。小さな改善を一つずつ喜び、できないことがあっても自分を責めないようにしましょう。
アサーティブコミュニケーションを学ぶ
アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しつつ、自分の意見や気持ちを正直に、対等に伝えるスキルです。感情的にならずに「〇〇されると、私は悲しい気持ちになる」といった形で、自分の気持ちを主語にして伝える練習も有効です。
どうしても改善しない時は専門機関に相談を

家庭や職場の工夫だけでは、解決が難しいこともあります。一人で、あるいは当事者だけで抱え込まず、相談先を使ってください。第三者の視点が入ることで、伝え方や環境の見直しが進むこともあります。
| 相談窓口 | 対象者 | 主な相談内容 |
|---|---|---|
| 発達障害者支援センター | 本人・家族 | 生活全般や就労に関する相談、医療機関に関する情報提供など |
| 精神保健福祉センター | 本人・家族 | 心の健康に関する専門的な相談(都道府県・政令指定都市に設置)。身近な相談先としては保健所や市区町村の窓口もあります。 |
| 就労移行支援事業所 | 本人(就労希望者) | 職業訓練、コミュニケーションスキル向上、就職活動のサポート |
| 障害者就業・生活支援センター | 本人・家族・企業 | 就労と生活の一体的な支援、職場定着のサポート |
| 会社の産業医・カウンセラー | 本人(在職者) | 職場環境の調整、メンタルヘルスに関する相談 |
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まとめ:決めつけずに、伝え方を変えてみる

「何度言っても伝わらない」ときは、相手の能力や意欲の問題と決めつけず、伝え方を変えてみることが第一歩です。
- 指示は一つずつ、具体的な言葉で出す
- 口頭だけでなく、メモ・チャット・図など目で見える形でも渡す
- 相手の言葉で復唱してもらい、途中経過もこまめに確かめる
- 感情的な叱責・人前での注意・「なぜ?」と問い詰めることは避ける
- 伝える側も一人で抱え込まず、相談先を使う
合う方法は人によって違います。相手と相談しながら、試せるものから少しずつ取り入れてみてください。
すぐに全部がうまくいくとは限りません。それでも、小さな工夫を積み重ねることが、お互いが少し楽になる助けになります。この記事が、あなたと身近な人とのコミュニケーションを考えるきっかけになれば幸いです。
最終更新日: 2026年10月29日
記事監修: 平川病院 産業医・発達障害専門医


