本記事は2026年10月21日に、ひきこもりの推計数を最新の国の調査に合わせ、親の死後のお金の手続き・生活保護の扶養照会の説明を見直し、「働かない子どもで親の貯金が減っているとき」の対策とよくある質問を追加しました。
8050問題とは、80代の親が、ひきこもりなどで働いていない50代の子どもの生活を支え続け、親子ごと地域から孤立してしまう状態のことです。今から動いても手遅れではなく、本人が嫌がっていても親だけで公的な窓口に相談できます。
最初の相談先は、お住まいの自治体(市区・都道府県)の「自立相談支援機関(生活困窮者の相談窓口)」「ひきこもり地域支援センター」、親自身の老後の相談として「地域包括支援センター」のどれかで構いません。30代・40代の子ども(いわゆる7040問題)や、子どもが働かず親の貯金が減っている段階でも、早めに相談するほど選べる手段が多くなります。
国の調査では、40〜64歳でひきこもり状態にある人は約61.3万人と推計されました(内閣府・平成30年度)。令和4年度の調査では15〜64歳で約146万人と推計され(厚生労働省)、40〜64歳の2.02%が「広義のひきこもり」にあたるとされています(こども家庭庁「こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」)。同じ悩みを抱える家族は少なくありません。
この記事では、次の4つを順にお伝えします。
- 8050問題が長く続いてしまう原因(家族の中で起きやすいこと)
- 親が亡くなった後に子どもに起こりうること(お金・手続き・生活保護)
- 働かない子どもで親の貯金が減っているときに、今からできる対策
- 「親だけ」「電話が怖い」でも頼れる公的な相談先と、民間団体の選び方
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1. 8050問題が長引いてしまう原因とは?

ひきこもりのきっかけは人によってさまざまです。令和4年度の国の調査では、40〜69歳でひきこもり状態にある人が、そうなった最も大きな理由として一番多かったのは「退職したこと」(42.2%)で、「新型コロナの流行」(17.0%)、「病気」(14.8%)が続きました(こども家庭庁「こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」)。
ただ、きっかけだけで問題が10年、20年と続くわけではありません。長引く背景として、家族の中で次のようなことが起きやすいと言われています。
「世間体」が気になり、家族ごと相談しにくくなる
子どもが働いていないことを「育て方の失敗」「家の恥」と感じ、周りに話せなくなる親御さんは少なくありません。
- 近所の人からの「お子さんは最近どうしているの?」という何気ない質問がつらくなる
- 町内会や親戚づきあいを少しずつ避けるようになる
- 「どこに相談すればいいか分からない」まま、家族の中だけで抱え込む
こうして家族ごと地域から見えにくくなると、支援の情報も届きにくくなります。8050問題が「家庭の密室化」と言われるのはこのためです。
親子が互いに頼り合い、動きにくくなる
外とのつながりが少ない家庭では、親子がお互いに頼り合う関係が強くなることがあります。
- 子どもは生活費のほとんどを親の年金や貯金に頼るしかなくなる
- 親は「この子は私がいないと生きていけない」と感じ、手続きや家事を代わりにやり続けてしまう
- 「また外で傷つくくらいなら」と、親が子どもの挑戦を止めてしまうこともある
- 家庭内で暴力や暴言が起きているケースもある(この場合は、まず親自身の安全を守る相談を優先してください)
「元の自分に戻らないと意味がない」という思い込み
以前の学歴や職歴が高かった場合などに、本人も親も「同じくらいの仕事でなければ意味がない」と考えてしまい、アルバイトや短時間の仕事から始めることに踏み切れないことがあります。
長い緊張状態が続くと、親が気持ちの落ち込みや体調不良を抱えたり、夫婦で責め合ったりすることもあります。家族が疲れ切る前に、外の力を借りることが大切です。
2. 8050問題の末路は?親の死後に子どもに起こりうること
「親が亡くなったら、この子はどうなるのか」は、多くの親御さんが一番不安に感じている点です。何も準備がないまま親が亡くなった場合に起こりうることを、お金・手続き・生活保護の順に整理します。ここで書くのは「起こりうること」で、すべての家庭がこうなるわけではありません。
お金と手続き:口座の凍結と年金の停止
親が元気なうちに「どの口座に何があるか」「毎月何が引き落とされているか」「困ったときの連絡先」を紙に書いて、子どもと共有しておくだけでも、親の死後の混乱は小さくできます。
生活保護の申請と「扶養照会」の実際
収入がなくなったとき、生活保護は大切なセーフティネットです。ただ、長くひきこもってきた人にとっては、窓口で事情を説明すること自体が大きな負担になります。
親の死をきっかけに、身の回りのことが手につかなくなり、部屋が片付かない・食事をとらないといった「セルフネグレクト(自己放任)」の状態になる人もいます。周りが気づきにくいまま体調を崩すおそれがあるため、親が元気なうちから、子どもが外の支援者と少しでもつながっておくことが大切です。
親が亡くなったときに、どうしていいか分からなくなる
親が亡くなった後、子どもが遺体をそのままにしていた、親の年金を受け取り続けていたといった事件が報じられることがあります。報道を見る限り、はじめから悪意があったというより、救急や警察への連絡、死亡届などの手続きが分からず、外の人が家に入ることへの強い不安から動けなくなった例もあると考えられます。
ただし、遺体を放置することや、亡くなった人の年金を受け取り続けることは、罪に問われることがあります。「親が倒れていたら、すぐに119番に電話する」「困ったら〇〇(窓口や親族)に連絡する」といった最低限の手順を、親が元気なうちに紙に書いて渡しておくと安心です。
3. 手遅れになる前に、家庭で今日からできること

親が元気な今なら、できることはたくさんあります。8050問題の解決は「無理やり部屋から出すこと」でも「すぐに就職させること」でもありません。まずは家の中を、子どもが安心して過ごせる場所にすることから始めます。
「働かせなければ」という焦りを、いったん手放す
長くひきこもっている子どもに対して、親はどうしても「何とか働かせないと」と焦ってしまいます。厚生労働省は、ひきこもりを「様々な要因の結果として…家庭にとどまり続けている状態」と定義しています(厚生労働省)。人そのものではなく「状態」として捉えると、親も焦りを少しゆるめやすくなります。
親自身が「自分が何とかしなければ」という責任感を一人で抱え込まないことも大切です。
声かけの「避けたい言葉」と「かけたい言葉」、手紙の使い方
声かけを少し変えるだけでも、家の空気は変わります。
▼避けたい言葉
▼かけたい言葉
顔を合わせると言い争いになってしまう場合や、子どもが部屋からほとんど出てこない場合は、短いメモも役立ちます。食事に「好きなハンバーグにしたよ」「寒くなったから風邪ひかないでね」と、返事を求めない一言を添えてみてください。
4. 働かない子どもで親の貯金が減っているときの対策
「30代の息子が2人とも働かず、親の貯金がどんどん減っている」というように、8050問題の手前の段階で悩んでいる家庭もあります。子どもが30代・40代のうちは、仕事や支援につながる選択肢がまだ多い時期です。お金の面では、次の順で整理するのがおすすめです。
- 家計を「見える化」する
毎月の収入(親の年金など)と支出、貯金の残高を書き出し、「今のペースだと貯金があと何年もつか」を計算します。子どもが何人いても、まず数字を家族で共有することが出発点です。 - 親の老後のお金を先に確保する
親の介護や医療に必要なお金まで使い切ってしまうと、親子ともに困ります。「ここから先は親の生活費」と線を引いておきましょう。 - 子どもに渡すお金のルールを決める
おこづかいの金額や、携帯代・食費などを誰が払うかを決めます。急に打ち切ると反発や暴力につながることもあるため、支援者と相談しながら少しずつ進めるのが安全です。 - 公的な家計相談を使う
生活困窮者自立支援制度には、家計の状況を一緒に整理し、滞納の解消や使える給付制度の利用を支援する「家計改善支援事業」があります(実施の有無は自治体によります)。窓口は自立相談支援機関です(厚生労働省 生活困窮者自立支援制度)。 - 子どもが使える支援を調べる
15〜49歳なら、働くことに悩む人の相談・就労支援を行う「地域若者サポートステーション」が使えます(厚生労働省)。病気や障害が背景にありそうな場合は、医療機関の受診や、障害年金・就労移行支援などの制度も選択肢になります。
障害年金の条件や金額は「発達障害・ADHDで障害年金はもらえる?」、無職・ひきこもりからの就職の進め方は「発達障害で無職・引きこもりから就職するには?」で詳しく解説しています。
5. 8050問題の相談窓口と相談先の選び方

家庭での工夫と同時に進めたいのが、外の相談先とつながることです。家族だけで抱え込み続けるほど、選べる手段は少なくなっていきます。
公的な相談窓口の違い(自立相談支援機関・ひきこもり地域支援センター・地域包括支援センター)
公的な窓口は無料で相談できます。話しやすいところから連絡してみましょう。
- 自立相談支援機関(生活困窮者自立支援制度)
仕事やお金、ひきこもりなど「どこに相談したらいいか分からない悩み」を受け止める、お住まいの自治体(市区・都道府県)の窓口です。相談支援員などが話を聞き、一人ひとりに合った支援計画を一緒に考えます。 - ひきこもり地域支援センター
ひきこもりに特化した相談窓口で、都道府県・指定都市に設置されてきました。2022年度からは市町村も設置できるようになっています(厚生労働省 ひきこもり支援)。 - 地域包括支援センター
本来は高齢者の介護や暮らしの相談窓口です。「80代の自分の今後の生活が心配」という親自身の相談として話しやすく、8050問題の入り口になることもあります。
どの窓口から相談しても、必要に応じてほかの機関とつないでもらえることが多くあります。分野をまたぐ相談をまとめて受け止める「重層的支援体制整備事業」に取り組む自治体も増えています。
「電話が怖い」「親だけ」でも大丈夫
「世間体が気になる」「子どもが怒るかもしれない」とためらう親御さんは多いですが、相談窓口はそうした家族からの相談に慣れています。
- 最初は親だけの相談で構わない
本人が最初から窓口に来ることは多くありません。まずは親御さんだけで相談するのが一般的なスタートです。 - 名前を伏せた相談やメールから始められる窓口もある
最初からすべてを話す必要はありません。匿名やメールでの相談を受け付けているかどうかは、各窓口のホームページで確認できます。 - 家族会や講演会に参加してみる
電話がどうしても怖い場合は、自治体や支援団体が開く、ひきこもりに関する講演会や家族会に参加してみるのも一つの方法です。
民間の支援団体を選ぶときの注意点
NPO法人などの民間支援団体を頼るのも一つの方法ですが、選び方には注意が必要です。
「引き出し屋」は避ける
「必ず自立させます」とうたい、高額な費用で本人を無理に連れ出して施設に入れる業者(通称:引き出し屋)が問題になっています。本人の同意がないまま連れ出すことは、強い心の傷や家族関係の悪化につながるおそれがあり、トラブルも報じられています。契約を急がせる団体には慎重になりましょう。
「親への支援」があるかを見る
信頼できる団体は、子どもへの支援だけでなく、親の悩みを聞く場(家族会・相談会など)を大切にしています。親の気持ちが落ち着き、孤立から抜け出すことが、子どもの回復の土台にもなります。
▼状況別の対策は、こちらで詳しく解説しています。
8050問題のよくある質問
- Q8050問題・7040問題とは何ですか?
- A
8050問題は、80代の親が、ひきこもりなどで働いていない50代の子どもの生活を支え、親子ごと孤立してしまう状態を指す言葉です。7040問題は、その10年前の段階(70代の親と40代の子ども)を指します。子どもの年齢が若いうちのほうが、仕事や支援につながる選択肢は多くなります。
- Q8050問題は、もう手遅れでしょうか?
- A
手遅れではありません。親が元気なうちなら、相談先とつながる、お金や手続きの情報を共有するなど、できることは多くあります。本人が相談を嫌がっていても、まずは親だけで自立相談支援機関やひきこもり地域支援センターに相談できます。
- Q親が亡くなったら、ひきこもりの子どもはどうなりますか?
- A
親の年金が止まり、親名義の口座は原則として引き出せなくなるため、準備がないと生活費や支払いに困るおそれがあります。収入がなくなれば生活保護を申請できますが、一人で手続きするのが難しい人も少なくありません。親が元気なうちに、口座や支払いの情報を整理し、子どもが外の支援者とつながっておくことが大切です。
- Q働かない30代の息子が2人いて、親の貯金が減っています。どうすればいいですか?
- A
まず家計を書き出し、貯金があと何年もつかを家族で共有します。そのうえで、親の老後に必要なお金を先に確保し、子どもに渡すお金のルールを決めましょう。お金の整理は自立相談支援機関(家計改善支援事業がある自治体もあります)、子どもの仕事の相談は地域若者サポートステーション(15〜49歳)が使えます。急にお金を打ち切ると反発を招くこともあるため、支援者と相談しながら進めるのが安全です。
- Q8050問題は本人の甘えや自己責任ですか?
- A
甘えや自己責任と言い切れるものではありません。国の調査では、ひきこもり状態になった理由として退職や病気などが多く挙がっています。責めるよりも、本人と家族が外の支援につながることが解決への近道です。
- Q子どもが相談に行くのを嫌がります。
- A
最初は親だけで相談して構いません。親が相談を続けるうちに、支援者を通じて本人とのかかわり方が見えてくることもあります。本人を無理に連れ出す方法は、関係を悪くするおそれがあるため避けましょう。
6. まとめ:8050問題は、家族を外に開くことから

最後に、この記事のポイントを振り返ります。
- 長引く原因は、家族ごと孤立しやすいこと
きっかけは退職や病気などさまざまですが、世間体や親子の頼り合いから、家族の中だけで抱え込むと問題は長引きやすくなります。 - 親の死後は、お金と手続きで困りやすい
年金の停止や口座の凍結で生活が立ち行かなくなるおそれがあります。親が元気なうちに情報を整理しておきましょう。 - まず親だけで公的な窓口へ
自立相談支援機関・ひきこもり地域支援センター・地域包括支援センターなどに、親だけで相談できます。子どもが働かず貯金が減っている段階でも、早めの相談が役立ちます。
「もう遅いかもしれない」「今さら相談するのは恥ずかしい」と、ご自身を責める必要はありません。お住まいの地域の窓口に、まずは一本の電話をかけてみてください。
参考資料:こども家庭庁「こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」/厚生労働省Webマガジン(ひきこもり支援の特集)/厚生労働省「ひきこもりの定義」資料/厚生労働省「ひきこもり支援施策について」(支援体制の行政説明資料)/厚生労働省「ひきこもり支援推進事業」/厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」/厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」(2021年2月26日)/厚生労働省「地域若者サポートステーション」
【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、専門的な支援に代わるものではありません。具体的な困りごとは、お住まいの地域の相談窓口にご相談ください。制度の内容や取り扱いは自治体や時期によって異なることがあります。記事内の対策は、すべての方に効果があることを保証するものではありません。
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記事監修: 平川病院 産業医・発達障害専門医


