お釣りの計算で毎回止まる。経費精算の数字を何度も転記ミスする。見積書の「単価×数量+消費税」の手順が、いつまでたっても頭に入らない。それでも国語や仕事の他の部分では困っていない——そういう出方をする困りごとを、算数障害(ディスカリキュリア)と呼びます。
このページのチェックは点数で判定しません。仕事と生活の場面を題材にした20の質問から、困りごとが「数の読み書き」「数の大きさ・順番」「計算」「文章から式を立てる」のどこに集まっているかを整理し、領域ごとの対処を示します。所要時間は約3分、登録は不要です。
数の困りごとが集まっている領域を、4つに分けて見ます
仕事や生活の場面を題材にした20の質問に答えると、困りごとが「数の読み書き」「数の大きさ・順番」「計算」「文章から式を立てる」のどこに集まっているかが見えます。最後に、受診を考えたときに医師が確認する2つのことも整理します。所要時間は約3分、登録は不要です。
あてはまるものを選んでください
困りごとの分布
領域ごとの、仕事での対処
受診前に整理しておく2つのこと
次に見るもの
このチェックの考え方|「診断テスト」ではなく、困りごとの領域を整理するもの

このチェックは、算数障害かどうかを判定するものではありません。 当てはまる数で結果を決めず、困りごとがどの領域に集まっているかだけを示します。
理由は2つあります。1つは、算数障害(医学的には限局性学習症のうち算数の障害を伴うもの)の診断が、当てはまる項目の数ではなく、子どもの頃からあったか、知的な遅れや練習不足では説明できないか、生活や仕事にどの程度の支障があるかを医師が総合的に見て行われるからです。もう1つは、大人の算数障害を測る標準化された検査が日本にはほぼなく、「何点以上なら算数障害」という基準が存在しないからです。
かわりにこのチェックでは、厚生労働省の発達障害ナビポータルが示す算数障害の4つの領域に沿って質問を作りました。
| 領域 | 何を指すか(厚労省ナビポータルの説明) | このチェックでの表示 |
|---|---|---|
| 数処理 | 数字と数詞と具体物の数の関係を理解すること | 数の読み書き |
| 数概念 | 序数性(数の順番)と基数性(数の量的関係)を理解すること | 数の大きさ・順番 |
| 計算 | 四則演算 | 計算 |
| 数的推論 | 文章題を解くこと | 文章から式を立てる |
「診断テスト」と名乗るページは検索するとたくさん出てきますが、算数障害に「診断テスト」と呼べる標準化された自己記入式の尺度はありません。このページが「セルフチェック」と呼ぶのはそのためです。
大人の算数障害(ディスカリキュリア)とは|知的な遅れはないのに、数だけが極端に苦手

算数障害は、学習障害(限局性学習症)の一つで、全体的な知的発達に遅れはないのに、数や計算に関わる能力だけが年齢や経験から期待される水準を大きく下回る状態です。
文部科学省は1999年の報告で、学習障害を「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態」と定義しています(文部科学省「学習障害児に対する指導について(報告)」)。このうち「計算する」「推論する」に困難が集中するのが算数障害です。
医学的な診断名では、アメリカ精神医学会のDSM-5-TRで「限局性学習症、算数の障害を伴う」と表記されます。そこで挙げられている困難は、数の感覚、数学的事実(九九など)の記憶、計算の正確さや流暢さ、数学的推理の正確さの4つで、これが上の表の4領域とほぼ対応します。診断には、その困難が6か月以上続いていること、知的能力障害や視覚・聴覚の問題、教育を受ける機会の不足では説明できないことが求められます。
出現率について、厚労省のナビポータルは「欧米では5〜7%と報告されているが、日本での実態は明らかにされていない」としています(厚生労働省 発達障害ナビポータル「限局性学習症」)。珍しいものではありませんが、日本では読み書きの障害(ディスレクシア)に比べて研究も支援も遅れているのが現状です。
なお読み書きの困りごとについては、「大人の軽度ディスレクシア|「読めるけど疲れる」の正体」と「ディスグラフィア(書字障害)の大人」で扱っています。算数の困りごとは読み書きの困りごとと重なって出ることも多く、両方が気になる場合は3領域をまとめて見る「大人の学習障害(LD)セルフチェック」から入ってください。
仕事で出やすい場面|経費精算・レジ・見積・シフトの逆算

子ども向けの解説は「九九が覚えられない」「繰り上がりができない」で止まりますが、大人の困りごとは仕事の場面で出ます。どの場面がどの領域に対応するかを整理すると、対処が選びやすくなります。
| 仕事の場面 | 起きていること | 主に関わる領域 |
|---|---|---|
| 伝票・発注書の転記 | 桁や数字の順番を取り違える。12,000と1,200を混同する | 数処理 |
| 電話での数字の聞き取り | 金額・日付・番号をそのまま書き取れない | 数処理 |
| レジ・お釣り・割り勘 | 暗算で止まる。電卓を出すと「そんなことも」と言われる | 計算 |
| 経費精算・小口現金 | 合計が合わない。何度も数え直して時間がかかる | 計算 |
| 見積書・請求書 | 単価×数量+消費税の手順が組み立てられない | 数的推論 |
| 納期・シフトの逆算 | 「いつまでに何を」が日数から出せない | 数的推論 |
| 「3割引」「2倍」の指示 | だいたいいくらになるかの感覚がない | 数概念 |
| グラフ・表の読み取り | 大小や傾向がすぐに読めない | 数概念 |
| 単位の換算 | 分と時間、gとkg、cmとmで間違える | 数的推論 |
共通するのは、数字が出てくる場面だけで極端に時間がかかる、または極端にミスが増えるという出方です。 文章を読む、人と話す、手順を覚えるといった他の作業では困っていないのに、数字が絡んだ瞬間に止まる。この「数字だけ」の偏りが、単なる不注意や経験不足との違いを見るときの手がかりになります。
「計算が苦手」「数字に弱い」と何が違うのか

計算が苦手な大人は多く、その全員が算数障害というわけではありません。同じ「数字で困る」でも、背景が違えば対処も違います。
| 背景 | 出方の特徴 | 見分ける手がかり |
|---|---|---|
| 算数障害 | 子どもの頃から算数だけ極端に低い。数の感覚そのものが弱い。電卓があっても手順で止まる | 小学生の頃の通知表で算数だけ落ち込んでいる。国語や他の教科は普通 |
| ADHDの不注意 | 計算はできるが、桁の見落とし・転記ミス・途中で手順を飛ばすミスが多い | 数字以外の場面(忘れ物、締め切り)でも同じ型のミスがある |
| 数学不安 | 数字を見ると緊張して頭が白くなる。落ち着いた環境なら解ける | 時間制限や人前でだけ極端に悪くなる |
| 練習・経験の不足 | やり方を教われば身につく。反復で改善する | 教わってから短期間で伸びる |
| 体調・疲労 | 以前はできていたのに最近できなくなった | 睡眠不足、うつ状態、過労と時期が重なる |
ADHDの不注意との切り分けは特に重要です。数字以外の場面でも同じ型のミス(見落とし・飛ばし・忘れ)が出ているなら、まず「ADHDテスト(ASRS・18問)」で注意の側を確認してください。算数障害とADHDは併存することもあり、どちらか一方に決める必要はありません。
なぜ大人まで気づかれないのか

算数障害は、読み書きの障害以上に大人まで見過ごされやすい特性です。理由は3つあります。
- 電卓と回避で補えてしまうから。 学生時代は電卓とテスト直前の暗記でしのぎ、進路選択で数学を避ければ、困りごとが表に出ません。就職して初めて「電卓を使っても手順で止まる」場面に直面します。
- 「算数が苦手」が普通のことだと思われているから。 「文章が読めない」は驚かれますが、「計算が苦手」は「自分もそう」と流されます。本人も周囲も、特性として疑う機会がありません。
- 困難が大きくなる時期が9歳ごろで、記憶が薄いから。 LITALICO発達ナビの専門家監修記事によると、算数障害の困難が特に大きくなるのは、抽象的な問題や手順の多い問題が増える9歳を迎える時期です。低学年の記憶はあいまいで、本人も「いつからか」を思い出せません。
そのため、経理・販売・製造・医療事務など数字を扱う仕事に就いたとき、または昇進して見積や予算管理を任されたときに、はじめて「自分だけ極端にできない」と気づく人が少なくありません。
結果の見方|4つの領域と、それぞれの対処

チェックの結果は領域ごとに「集まっている」「やや集まっている」「少なめ」で表示されます。ここでは各領域の意味と、仕事で使える対処を示します。共通する原則は1つで、「練習で克服する」より「道具と手順で補う」ことを優先します。
「数の読み書き(数処理)」が高めだった場合
数字と言葉と量の対応に負担があります。転記・聞き取り・読み上げの場面でミスが出ます。対処は、数字を口頭ではなくメールやチャットで受け取って聞き取りメモをなくすこと、転記を手入力からコピーや読み取り機能に置き換えること、金額を「123,000円」のように3桁区切りの数字だけで扱い「12万3千」を混ぜないことです。
「数の大きさ・順番(数概念)」が高めだった場合
数の大きさや順番の感覚に負担があります。見積もりや大小比較の場面で止まります。対処は、「3割引=×0.7」のような換算表を手元に置いて感覚で出そうとしないこと、所要時間は過去の実績を記録して記録から見積もること、グラフは数値ラベルを表示してもらい棒の長さではなく数字で読むことです。
「計算」が高めだった場合
計算の手順そのものに負担があります。暗算・筆算・電卓の操作でミスが出ます。対処は、暗算を最初からやめて電卓や表計算を当たり前の道具として使うこと、履歴が残る電卓やスマホアプリで押し間違いを見返せるようにすること、消費税やパーセントは表計算の数式にして固定し毎回手で計算しないことです。
「文章から式を立てる(数的推論)」が高めだった場合
文章や条件から式を組み立てることに負担があります。見積・逆算・単位換算の場面で止まります。対処は、見積書や請求書を数式入りのテンプレートにして数字を入れるだけにすること、納期からの逆算はカレンダーに書き出して頭の中で日数を数えないこと、単位換算は換算表を手元に置くことです。
全領域が低めなのに、困っている場合
算数障害以外の要因を考えてください。転記ミスや見落としが数字以外でも出ているならADHDの不注意、数字を見ると緊張して固まるなら数学不安、以前はできていたのに最近できなくなったなら睡眠不足やうつ状態などの体調の問題が候補になります。「最近できなくなった」場合は、特性ではなく体調の問題として医療機関に相談してください。
相談先と検査について|大人の算数障害を測る標準化検査は、ほぼありません

受診先は精神科または心療内科で、発達障害を診ている医療機関を選びます。ただし正直に書くと、大人の算数障害を診断できる医療機関は限られています。 読み書きについては成人向けの検査(RaWF・RaWSN)がありますが、算数については成人向けに標準化された検査が日本にはほぼありません。就労移行支援事業所Kaienの医師監修記事も、使える検査が限られるため大人になってからの限局性学習症の診断は難しいケースが多い、と述べています。
そのため実際の診察では、次の材料を組み合わせて判断します。
- 生育歴:小学生の頃の通知表、九九や繰り上がりでのつまずき、算数だけ極端に低かったか
- 知能検査(WAIS-IV):全体の知的水準に遅れがないことの確認と、下位検査の凸凹(ワーキングメモリや処理速度など)
- 実際の課題:診察室で簡単な計算や文章題をやってみる、仕事で起きたミスの記録を見る
- 他の要因の除外:ADHD、うつ状態、睡眠、視覚の問題
WAIS-IVは保険診療で受けられ、2026年6月改定の診療報酬で450点、3割負担なら検査そのものは1,350円です。初診料や通院精神療法などが別にかかるため、費用の全体像は「大人の発達障害の検査費用と何科に行くか」で確認してください。
受診前に、このチェックの結果画面に出る「受診前に整理しておく2つのこと」(子どもの頃からか、読み書きにも困りごとがあるか)と、仕事で起きたミスを日付つきで3つ書き出しておくと、診察が進みやすくなります。医療機関が見つからない場合は、各都道府県の発達障害者支援センターに相談すると、対応できる医療機関の情報を得られることがあります。
職場に相談できる配慮と、使える支援

算数障害は発達障害者支援法の定義に「学習障害」として明記されており、診断がつけば精神障害者保健福祉手帳の対象になり得ます。手帳の要否や取得の条件は個別の事情で異なりますが、診断の有無にかかわらず職場に求められる調整があります。
| 配慮の例 | 補う領域 |
|---|---|
| 電卓・表計算の使用を当然のものとして認める | 計算 |
| 金額・数量の指示は口頭ではなく文字で出す | 数処理 |
| 見積・請求などの計算は数式入りテンプレートで行う | 数的推論 |
| 現金・数値のダブルチェック体制にする(本人だけに責任を負わせない) | 計算・数処理 |
| レジ・小口現金・予算管理を業務から外し、数字を扱わない業務へ調整する | 全領域 |
これらは合理的配慮として職場に相談できる範囲のものです。伝え方のコツは「計算が苦手なので配慮してください」ではなく、「暗算だと桁を間違えるので、電卓と表計算を使えばミスなくできます」のように、困りごとと代替手段をセットで示すことです。
診断がつかない、または手帳がない場合でも、医師の意見書があれば就労移行支援を利用できることがあります。数字を扱わない職種への転職や、配慮を前提にした就職を考えるなら、「就労移行支援は手帳なし・グレーゾーンでも利用できる」と「グレーゾーンで仕事が辛いあなたへ」を参考にしてください。
大人の算数障害セルフチェックに関するよくある質問
- Q算数障害の「診断テスト」はありますか?
- A
自己記入式で算数障害を判定できる標準化された診断テストはありません。診断は医師が、生育歴・知能検査・実際の課題・他の要因の除外を組み合わせて行います。ネット上の「診断テスト」は、このページのチェックと同じく困りごとを整理する目安として使ってください。
- Q大人になってから算数障害になることはありますか?
- A
ありません。算数障害は発達期からある特性で、大人になってから新たに生じるものではありません。「以前はできていたのに最近できなくなった」場合は、注意の問題、疲労や睡眠不足、うつ状態などが背景にあることが多く、まずそちらを疑ってください。
- Q算数障害だけで障害者手帳は取れますか?
- A
可能性はあります。学習障害は発達障害者支援法の対象で、精神障害者保健福祉手帳の判定でも発達障害は対象に含まれます。ただし、日常生活や社会生活に長期にわたる制約があることと、初診から6か月以上経過した診断書が必要で、実際に交付されるかは自治体の判定によります。
- Q何科を受診すればいいですか?
- A
大人は精神科または心療内科で、発達障害を診ている医療機関を選びます。算数障害に対応できる医療機関は限られるため、事前に電話で「大人の学習障害(算数の困りごと)を診てもらえるか」を確認するか、都道府県の発達障害者支援センターに相談してください。
- Qトレーニングで克服できますか?
- A
数の感覚そのものが練習で定型発達の水準になるという根拠は乏しく、大人の場合は「克服」より「補う」が現実的な目標です。電卓・表計算・テンプレート・換算表といった道具と手順で困りごとを減らすほうが、短期間で確実に効果が出ます。
- Q算数障害とADHDはどう違いますか?
- A
算数障害は数の感覚や計算の手順そのものの困難で、数字以外の場面では困りません。ADHDの不注意は、計算自体はできるのに桁の見落としや転記ミス、手順の飛ばしが起きるもので、数字以外の場面でも同じ型のミスが出ます。両方が併存することもあり、どちらか一方に決める必要はありません。
まとめ|「計算が苦手」を、練習ではなく道具と手順で補う

算数障害(ディスカリキュリア)は、知的な遅れはないのに数や計算だけが極端に苦手な特性で、大人では経費精算・レジ・見積・シフトの逆算といった仕事の場面で表に出ます。「診断テスト」と呼べる標準化された尺度はなく、このページのチェックも点数で判定しません。困りごとが4つの領域のどこに集まっているかを見て、領域ごとに道具と手順で補うことが対処の中心です。
数字だけで極端に困っているなら、それは怠けでも努力不足でもありません。 大人の算数障害を測る検査は限られていますが、生育歴と仕事での困りごとを整理して受診すれば、配慮や支援につながる道はあります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・助言に代わるものではありません。制度の対象範囲や費用は、自治体や医療機関、個別の事情によって異なります。
記事監修: 平川病院 産業医・発達障害専門医


