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ADHDの診断は受けない方がいい?立ち止まって考えるメリット・デメリットと”診断後”の生き方

発達障害ガイド

「もしかして自分はADHDかもしれない…」
「でも、病院で診断を受けるのは怖い…」

日々の生活の中で感じる生きづらさの正体を知りたいと思う一方で、「診断」という言葉の響きに、漠然とした不安や恐怖を感じている方は少なくないでしょう。「ADHDの診断はしない方がいい」という意見を見聞きし、どうすべきか一人で悩んでいませんか?

この記事では、ADHDの診断を受けるか迷っているあなたのために、考えられるメリットとデメリットを中立的な立場から徹底的に解説します。

この記事の目的は、診断を受けるか受けないか、どちらか一方を推奨することではありません。あなた自身が冷静に情報を整理し、納得してこれからの道を選択するための一助となることです。診断はゴールではなく、あくまで自分を深く理解し、より良い人生を歩むための”ツール”の一つです。

この記事を読めば、診断への過度な不安が和らぎ、あなたにとって最適な一歩を踏み出すためのヒントが見つかるはずです。

▼記事を読むのが面倒な人のためにAI解説動画を作りました。読み間違いはご容赦くださいませ。

「ADHDの診断、しない方がいいかも…」あなたが今、そう思う理由

診断を受けることに躊躇してしまうのには、いくつかの理由が考えられます。多くの人が、以下のような不安や懸念を抱えています。

「病気」だと認めたくない・レッテルを貼られたくない

ADHDという診断名がつくことで、自分に「障害者」というレッテルが貼られてしまうように感じ、それを受け入れたくないという気持ちは自然なものです。「自分は病気なんだ」と認めることへの抵抗感や、自己肯定感が下がってしまうことへの恐れが、病院から足を遠ざける一因になっています。

薬物治療への漠然とした不安や抵抗感がある

ADHDの治療法として薬物治療があることを知り、「薬に頼らなければいけなくなるのか」「副作用はないのか」といった不安を感じる方も多いでしょう。精神科の薬に対して、依存性や副作用といったネガティブなイメージを持っている場合、治療そのものに抵抗を感じてしまうことがあります。

就職や保険加入などで不利になるかもしれないという懸念

「診断記録が残ることで、将来的に不利になるのではないか」という心配も、診断をためらう大きな理由です。特に、生命保険や住宅ローンの審査、就職・転職活動において、ADHDの診断がマイナスに働くのではないかという不安は、多くの方が抱く現実的な懸念と言えるでしょう。

これまで何とかやってこれたという自負

多くの困難を抱えながらも、自分なりの工夫や努力でこれまで何とか乗り越えてきたという自負があるからこそ、「今さら診断を受ける必要はない」と感じることもあります。自分の力で対処できる範囲だと考え、医療の助けを借りることに抵抗を感じるケースです。

【結論】ADHDの診断は”ゴール”ではない。自分を知るための”ツール”の一つ

様々な不安から診断をためらう気持ちは、非常によく分かります。しかし、ここで最も重要なのは、ADHDの診断は、あなたの人生を決定づける”ゴール”ではなく、これからの人生をより良く生きるための”ツール(道具)”の一つに過ぎないということです。

診断を受けることで、生きづらさの根本原因を客観的に理解し、具体的な対策を立てやすくなります。それはまるで、これまで霧の中で手探りで歩いていた道に、一本の道しるべが立つようなものです。

もちろん、診断を受けずに自分なりの方法で特性と付き合っていくことも、立派な選択肢の一つです。大切なのは、あなた自身が情報を吟味し、納得した上で、これからの生き方を選択することなのです。

冷静に判断しよう|ADHDの診断を受ける「デメリット」と「メリット」

診断を受けるべきか判断するためには、考えられるデメリットとメリットの両方を冷静に比較検討することが不可欠です。

考えられる5つのデメリット

デメリット具体的な内容
① 心理的ショック「ADHD」という診断名がつくことで、精神的にショックを受けたり、自己肯定感が一時的に低下したりする可能性があります。
② 診断名への依存「自分はADHDだから仕方ない」と診断名を言い訳にしてしまい、状況を改善するための努力を諦めてしまうリスクがあります。
③ 周囲からの偏見ADHDに対する正しい知識がない人から、誤解や偏見の目で見られてしまう可能性があります。カミングアウトの範囲は慎重に考える必要があります。
④ 保険・ローンへの影響事実として、一部の生命保険や医療保険、住宅ローンでは、告知義務があり、加入が制限されたり、条件が追加されたりする場合があります。
⑤ 時間的・金銭的コスト専門の医療機関を探し、予約を取り、検査や診察を受けるには、相応の時間と費用(保険適用でも数千円~数万円)がかかります。

特に、保険やローンに関する懸念は大きいでしょう。しかし、軽度のADHDで日常生活に大きな支障がない場合は保険に加入しやすい傾向があり、症状が安定していれば加入できる保険商品も増えています。重要なのは、正確な情報を得て、個別のケースについて確認することです。

デメリットを上回る?5つの大きなメリット

一方で、診断を受けることには、これらのデメリットを上回る可能性のある大きなメリットが存在します。

メリット具体的な内容
① 原因の明確化長年抱えてきた生きづらさや失敗体験の原因が「自分の努力不足や性格の問題ではなかった」と分かり、自己肯定感の回復につながります。
② 具体的な対策自分の脳の特性が分かることで、先延ばし癖、不注意、衝動性など、具体的な困りごとに対して有効な対策(環境調整、ツールの活用など)を立てやすくなります。
③ 医療的サポート必要に応じて、集中力や衝動性をコントロールする薬物治療など、専門的な医療サポートを受けることができます。これにより、生活の質が劇的に改善するケースも少なくありません。
④ 公的支援の利用診断を受けることで、障害者手帳の取得(初診から6ヶ月以上経過後に申請可能)や、障害者雇用枠での就労、就労移行支援、自立支援医療(医療費の自己負担を1割に軽減する制度)などの福祉サービスを利用できる道が開かれます。
⑤ 周囲の理解家族や職場など、身近な人に自分の特性を客観的な言葉で説明しやすくなります。「忘れっぽい」「集中が続かない」といった行動の背景を理解してもらうことで、不要な対立を避け、協力的な関係を築きやすくなります。

「診断はしない」と決めたあなたへ。今日からできる具体的な3つのアクション

様々な情報を検討した上で、「今は診断を受けない」と決断することも、一つの有効な選択です。その場合、ただ現状維持を目指すのではなく、より積極的に自身の特性と向き合い、生きやすさを向上させるためのアクションを起こすことが重要になります。

ステップ1:客観的に「自分の特性」を理解する

まず取り組むべきは、主観的な「悩み」を客観的な「特性」として捉え直す作業です。

  • 信頼できるセルフチェックツールの活用
    ウェブ上には様々なセルフチェックがありますが、医療機関などが提供している信頼性の高いものを参考にしましょう。例えば、成人期のADHD自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)は、WHOと研究者からなる作業グループが作成した信頼性の高いツールです。ただし、これらはあくまで簡易的なものであり、自己判断の材料の一つとして捉えましょう。
  • 日常の「困りごと」を具体的に書き出す
    「仕事でミスが多い」といった漠然とした悩みではなく、「メールの宛先を間違える」「締め切りを忘れる」「会議の内容を覚えていられない」など、どのような状況で、どのような困りごとが起きるのかを具体的に記録します。これにより、自分の苦手なパターンが見えてきます。

ステップ2:「環境」を自分の特性に合わせて調整する

自分の特性が理解できたら、次は「根性で乗り切る」のではなく、「環境の力でカバーする」という発想に切り替えます。

  • 仕事環境の工夫
    • ツールの活用: タスク管理アプリ(Trello, Asana)、リマインダー、ノイズキャンセリングイヤホンなどを積極的に活用する。これらのツールは実際にADHDの方のタスク管理に有効であることが、多くの体験談で報告されています。
    • 業務の見える化: 仕事の全体像や手順を付箋やホワイトボードに書き出して可視化する。
    • パーテーションの設置: 視覚的な情報に邪魔されないよう、集中できる物理的な空間を作る。
  • 人間関係の工夫
    • 得意な役割を担う: アイデア出しは得意だが事務作業は苦手など、自分の得意・不得意を理解し、チーム内で得意な役割を担えるよう働きかける。
    • 苦手な状況を避ける: 雑談が多い場所では集中できないと分かっていれば、一人で作業できる時間や場所を確保する。

ステップ3:専門家やコミュニティに相談する

医療機関での「診断」という形にこだわらなくても、相談できる場所はたくさんあります。

  • 医療機関以外の相談窓口
    • カウンセリング: 臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングを受けることで、自分の思考パターンを整理し、具体的な対処法を見つける手助けになります。
    • 発達障害者支援センター: 全国に97ヶ所設置されており、本人や家族からの相談に応じ、様々な情報提供や助言を行っています。
  • 当事者会やオンラインコミュニティの活用
    同じような特性を持つ人々と繋がることで、「悩んでいるのは自分だけじゃない」という安心感を得られたり、実生活で役立つ工夫や情報を交換したりすることができます。

参考:発達障害者支援センター・一覧(国立障害者リハビリテーションセンター)

もし家族やパートナーにADHDの疑いがある場合、どうすればいい?

この記事を読んでいる方の中には、ご自身ではなく、身近な家族やパートナーのために情報を集めている方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、以下の点を心に留めておくことが大切です。

本人の意思を最大限に尊重する

最も重要なのは、本人が「困っているか」「助けを求めているか」です。周囲がどんなに心配しても、本人が現状に大きな問題を感じていなければ、診断や受診を無理強いすることはできません。

「決めつけ」や「診断の強要」は避ける

「あなた、ADHDじゃないの?」といった決めつけるような言葉は、相手を傷つけ、心を閉ざさせてしまいます。「最近、疲れやすそうだけど、何か困っていることはない?」など、相手を気遣う言葉から対話を始めましょう。

本人が困っていることに寄り添い、一緒に情報を集める姿勢を

もし本人が生きづらさを感じ、何らかの変化を望んでいるのであれば、「一緒に考えてみようか」「こういう相談窓口があるみたいだよ」と、選択肢を提示し、寄り添う姿勢を見せることが、信頼関係を築く上で重要です。

ADHDの診断に関するよくある質問

Q
どこで診断を受けられますか?費用はどのくらい?
A

大人のADHDの診断は、精神科や心療内科で行っています。特に「大人の発達障害」を専門としている医療機関を選ぶとスムーズです。費用は、初診、心理検査、診断などで、健康保険を適用しても合計で数千円~3万円程度かかるのが一般的ですが、医療機関によって異なります。事前に問い合わせることをお勧めします。

Q
診断を受けたら、会社に報告する義務はありますか?
A

報告する法的な義務はありません。診断について会社に伝えるかどうかは、完全に個人の判断に委ねられます。ただし、障害者雇用枠での就労を希望する場合や、特性に対する合理的な配慮(業務内容の調整、休憩の取り方の工夫など)を求める場合には、診断書を提示して説明する必要があります。

Q
ADHDの特性を「強み」として活かすことはできますか?
A

はい、十分に可能です。ADHDの特性は、裏を返せば素晴らしい才能になり得ます。

  • 創造性・独創性: 多動性や衝動性は、斬新なアイデアを生み出す力になります。
  • 行動力・決断力: 思い立ったらすぐ行動できる力は、新規事業やプロジェクトの推進力になります。
  • 過集中: 興味のあることに対しては、驚異的な集中力を発揮し、専門性を高めることができます。自分の特性を理解し、それが活かせる環境を選ぶことが重要です。

まとめ:一人で抱え込まず、まずは信頼できる専門家への相談から

ADHDの診断を受けるか、受けないか。これは非常に個人的で、簡単な答えが出る問題ではありません。しかし、どちらの道を選ぶにしても、あなたが一人で悩み続ける必要は全くありません。

診断を受けることは、決して「負け」や「終わり」ではありません。むしろ、自分自身を深く理解し、自分に合った生き方を見つけるための「始まり」です。診断を受けないという選択をするにしても、自分の特性を客観的に把握し、具体的な対策を講じることで、今よりもずっと生きやすくなる可能性は十分にあります。

もしあなたが今、暗いトンネルの中にいるように感じているのなら、まずは公的な相談窓口や信頼できるカウンセラーなど、専門家への相談から始めてみてください。診断を受けるかどうかは、その先でゆっくり考えても遅くはありません。

あなたの人生は、あなた自身のものです。どんな選択をしても、あなたがあなたらしく、前向きに生きていくためのサポートは、必ず存在します。


【免責事項】
本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療、専門的な支援に代わるものではありません。発達障害に関する具体的な困りごとや診断については、必ず専門の医療機関や発達障害者支援センターなどにご相談ください。また、記事内で紹介している対策方法は、すべての方に効果があることを保証するものではありません。ご自身の状況に応じて、無理のない範囲でお試しください。

記事監修: 平川病院 産業医・発達障害専門医

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