「うまく言葉が出てこない…」
「話そうとすると、なぜか詰まってしまう」
人とのコミュニケーションで、このような話しにくさを感じていませんか? もしかしたら、その悩みは単なる緊張や話し方のクセではなく、「吃音(きつおん)」かもしれません。
そして、「自分のこの吃音は、もしかして発達障害と関係があるのでは?」、特に「ADHDの特性が影響しているのかも…」と感じている大人の当事者の方も少なくないでしょう。
この記事では、そのような悩みを抱える方に向けて、吃音と発達障害、特に大人のADHDとの深い関連性について、専門的な知見を交えながら分かりやすく解説します。
原因を知り、正しい対処法を学ぶことで、あなたのコミュニケーションの悩みはきっと軽くなります。一人で抱え込まず、まずは知識を得ることから始めてみませんか?
▼記事を読むのが面倒な人のためにAI解説動画を作りました。読み間違いはご容赦くださいませ。
吃音(きつおん)とは?3つの主な症状

吃音とは、話すときに言葉がなめらかに出てこない発話障害の一種です。本人の意思とは関係なく起こり、主に以下の3つの症状が見られます。ご自身の話し方がどれに当てはまるか、確認してみましょう。
- 連発(れんぱつ)
「ぼ、ぼ、ぼくは…」「き、き、昨日…」のように、言葉の最初の音や一部を何度も繰り返す症状です。 - 伸発(しんぱつ)
「あーーーりがとう」「そーーーれでね」のように、言葉の一部を長く引き伸ばす症状です。 - 難発(なんぱつ)/ブロック
「………っ(息が詰まる)…こんにちは」のように、言葉を出そうとしても喉が詰まったようになり、声や息が全く出てこない症状です。最も苦痛を感じやすい症状とも言われています。
これらの症状は、常に現れるわけではなく、特定の状況(人前での発表、電話など)で強く出たり、リラックスしている時はほとんど出なかったりと、波があるのが特徴です。
なぜ?吃音と発達障害の深い関連性

「吃音が、発達障害と関係あるなんて…」と驚かれるかもしれません。実は、吃音と発達障害には深い関連性があり、医学的にも神経発達の観点から共通点があると指摘されています。
吃音は「発達障害」のひとつ
まず知っておきたいのは、2005年より日本国は吃音が発達障害者支援法に含まれるという立場を表明しているということです。2014年7月には国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターが、吃音症を「発達障害者支援法に定義されている障害」として正式に位置づけ、支援の対象としています。
これは、吃音が単なる心理的な問題や育て方の問題ではなく、脳の機能的な特性(神経発達症)が関係していることを示しています。
特に併発しやすい発達障害とは?
吃音のある人の中には、他の発達障害の特性をあわせ持つ人が少なくありません。特に併発が指摘されるのが以下の2つです。
- 注意欠如・多動症(ADHD)
落ち着きがない(多動性)、待てない(衝動性)、うっかりミスが多い(不注意)といった特性があります。 - 自閉スペクトラム症(ASD)
対人関係の困難さや、強いこだわりといった特性があります。
吃音とこれらの発達障害が併発する具体的な統計は限られていますが、臨床現場では一定の関連性が認識されています。
脳機能の観点から見た共通点
なぜ併発しやすいのでしょうか。近年の研究では、吃音もADHDやASDも、脳の特定の神経回路の働きが関係していると考えられています。
具体的には、言葉を組み立てて発声する運動をコントロールする脳の領域や、思考や感情を制御する前頭前野などの働きに、関連性が見られることが指摘されています。つまり、吃音も発達障害も、脳機能という同じ土台の上にある問題であるため、併発する可能性が高くなると考えられているのです。
【当事者向け】大人のADHDと吃音が併発しやすい理由

ここからは、特に「大人のADHDと吃音」の悩みに焦点を当てて深掘りします。ADHDの特性が、具体的にどのように話しにくさに繋がるのでしょうか。
衝動性・多動性による影響
ADHDの衝動性・多動性の特性は、「思ったことをすぐに口に出してしまう」「じっとしているのが苦手」といった形で現れます。これが発話に影響すると、以下のような状況が起こりやすくなります。
- 考えがまとまる前に話し始めてしまう
頭の中で話す内容が整理される前に口が動いてしまい、途中で言葉に詰まったり、言い淀んだりします。 - 早口になりやすい
思考のスピードに口が追いつかず、発話のリズムが乱れてしまいます。このリズムの乱れが、吃音の症状を引き起こすきっかけになることがあります。
不注意による影響
不注意の特性は、「集中力が続かない」「忘れ物が多い」といった形で現れます。会話においては、次のような困難に繋がります。
- 話の途中で次に言うべき言葉を見失う
相手の話を聞きながら自分の話す内容を考える、といった「ながら作業」が苦手なため、会話の途中で注意がそれてしまい、言葉が出てこなくなることがあります。 - ワーキングメモリの負荷
ワーキングメモリ(情報を一時的に記憶し処理する能力)への負荷が大きいと、スムーズな発話が困難になります。ADHDの人はこの機能に課題がある場合が多く、複雑な会話で吃音が出やすくなる傾向があります。
感情調整の困難さとの関連
ADHDの特性を持つ人は、不安や緊張、興奮といった感情の波をコントロールするのが苦手な場合があります。こうした感情の高ぶりは、発話に関わる筋肉を緊張させ、吃音の症状を悪化させる引き金となります。特に、失敗への恐怖や「またどもってしまうかもしれない」という予期不安が、悪循環を生み出してしまうのです。
子どもと大人で異なる吃音へのアプローチ

吃音への向き合い方は、年齢によって異なります。ここでは、子どもの場合と大人の場合に分けて、対応のポイントを解説します。
子どもの吃音(発達性吃音)の特徴と対応
2-5歳の幼児期に話し始める子どもは多く、これは「発達性吃音」と呼ばれます。多くの場合、成長と共に脳の発達が追いつき、7-8割は自然に症状が消えると報告されています。
そのため、保護者の方は焦らず、以下のようなサポートを心がけることが大切です。
- 話を最後までゆっくり聞く
子どもが話している途中で口を挟んだり、言い直しをさせたりせず、最後までじっくりと耳を傾けましょう。 - 安心できる環境を作る
「ちゃんと話しなさい」と叱るのではなく、「大丈夫だよ」と安心感を与える関わりが、子どもの心理的な負担を軽減します。 - 話し方を指摘しない
吃音の症状そのものを話題にしたり、からかったりすることは絶対に避けてください。
ただし、症状が長期間続いたり、本人が強く気にしていたりする場合は、小児科や地域の保健センター、言語聴覚士に相談しましょう。
大人の吃音(遷延性・獲得性吃音)の悩みと向き合い方
子どもの頃の吃音が続いてしまう「遷延性吃音」や、大人になってから発症する「獲得性吃音」の場合、吃音と長く付き合ってきたことによる心理的な負担が大きくなります。
- 就職活動での面接
- 職場での電話応対やプレゼンテーション
- 初対面の人との自己紹介
これらの場面で強い困難を感じ、「話すこと」自体に恐怖心を抱いてしまうことも少なくありません。大人の吃音は、単なる発話の問題ではなく、自己肯定感やキャリア形成にも影響を与える深刻な悩みとなり得るのです。
今日からできる吃音の症状を緩和する具体的アプローチ

大人の吃音は「完治」を目指すよりも、症状と上手に付き合い、コミュニケーションの困難を減らしていく「症状のコントロール」が現実的な目標となります。ここでは、今日から実践できる具体的なアプローチをご紹介します。
セルフケアでできること
- 話し方の工夫
意識的にゆっくりと、一語一語区切るように話してみましょう。また、腹式呼吸で息を整えてから話し始めると、第一声が出やすくなります。言いにくい言葉は、別の簡単な言葉に言い換えるのも有効なテクニックです。 - ストレスマネジメント
吃音はストレスや疲労で悪化します。十分な睡眠をとり、リラックスできる時間を作りましょう。マインドフルネス瞑想なども、不安感を和らげるのに役立ちます。
職場でできる合理的配慮と工夫
2024年4月1日から改正された障害者差別解消法により、民間事業者においても障害のある人への「合理的配慮の提供」が法律で義務付けられています。勇気を出して、上司や人事に相談してみましょう。
困りごと | 配慮の例 |
---|---|
電話応対が極度に苦手 | 主要な連絡手段をチャットやメールにしてもらう。一次対応を他の人に代わってもらう。 |
朝礼など人前での発表が辛い | 事前に話す内容を文章で共有しておく。発表の順番を調整してもらう。 |
会議で意見が言えない | 発言のタイミングを司会者に示してもらう。後から議事録やメールで意見を補足することを許可してもらう。 |
急な指名をされると固まってしまう | 「少し考える時間をください」と言えるルールをチームで共有する。 |
周囲の人ができるサポート
もしあなたの周りに吃音で悩んでいる人がいたら、以下の点を心がけてみてください。あなたの少しの配慮が、当事者の大きな安心に繋がります。
- 話を最後まで、急かさずに聞く
- 相手の言葉を先取りして言わない
- 話し方を真似したり、指摘したりしない
- 優しい眼差しで、話の内容に集中して聞く姿勢を見せる
専門家への相談と利用できる公的支援

一人で悩みを抱え続けるのは辛いものです。吃音や発達障害は、専門家のサポートを受けることで、悩みを大きく軽減できます。
どこに相談すればいい?専門機関一覧
- 言語聴覚士(ST)がいる医療機関
リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、精神科、心療内科などに在籍していることが多いです。発話のトレーニングやカウンセリングを行ってくれます。 - 発達障害者支援センター
各都道府県・指定都市に設置されており、本人や家族からの様々な相談に応じ、適切な支援機関に繋いでくれます。 - 吃音の当事者団体・セルフヘルプグループ
同じ悩みを持つ仲間と出会い、情報交換や共感を通じて、孤立感を和らげることができます。
知っておきたい公的支援制度
吃音や併発する発達障害の診断がある場合、以下のような公的支援を利用できる可能性があります。
- 自立支援医療(精神通院医療)
精神科や心療内科への通院にかかる医療費の自己負担額が、原則1割に軽減される制度です。また、世帯の所得に応じて月々の自己負担額に上限が設けられています。 - 精神障害者保健福祉手帳
障害の程度に応じて、税金の控除や公共料金の割引など、様々な福祉サービスが受けられます。吃音そのものでの取得は容易ではありませんが、吃音による強い不安や抑うつ状態が続き、うつ病や不安障害といった精神疾患の診断を受けた場合には、その症状の程度によって手帳の交付対象となることがあります。 - 障害者雇用枠での就労
自身の特性に配慮のある環境で働くという選択肢です。就労移行支援事業所などで相談が可能です。
まとめ

今回は、吃音と発達障害、特に大人のADHDとの関連性について詳しく解説しました。最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
- 2005年より日本国は吃音が発達障害者支援法に含まれるという立場を表明しており、脳機能が関係する神経発達症の一つです。
- 特にADHDやASDといった発達障害と併発する可能性があります。
- 大人のADHDの場合、衝動性や不注意といった特性が、発話の困難さに影響を与えます。
- 原因は本人の性格や努力不足ではありません。
- 大人になってからでも、話し方の工夫、環境調整、専門家のサポートによって、症状と上手に付き合っていくことは可能です。
吃音の悩みは、周囲に理解されにくく、一人で抱え込みがちです。しかし、あなたは決して一人ではありません。この記事が、あなたの悩みを理解し、次の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
まずは勇気を出して、専門機関のドアを叩いてみてください。そこから、新しい道が拓けるはずです。
注意事項:
本記事は情報提供を目的としたもので、医学的診断に代わるものではありません。診断は必ず専門の医療機関にご相談ください。記事内容は一般的な情報であり、お悩みの方は支援機関への相談をお勧めします。
記事監修: 平川病院 産業医・発達障害専門医