「何度説明しても覚えられないね」
「また同じミス?いい加減にして」
職場でこのような言葉を投げかけられ、トイレで一人落ち込んだり、帰りの電車で「自分はなんてダメなんだろう」と自分を責めたりしていませんか?
もしあなたが、人一倍努力しているのに「仕事が覚えられない」「ミスが減らない」と悩んでいるなら、それはあなたの「やる気」の問題ではありません。脳の特性、いわゆる発達障害(ADHDやASD)の特性が関係している可能性があります。
この記事では、なぜミスが起きてしまうのかという「脳の仕組み」から、明日から職場でこっそり使える「具体的なミス防止ツール」、そして「自分に合った働き方」まで、メンタルヘルスとキャリアの専門的知見に基づき徹底解説します。
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なぜ「覚えられない」「ミスばかり」が起きるのか?脳の仕組みを理解する

精神論で頑張る前に、まずは「敵(特性)」を知ることが大切です。発達障害(神経発達症)の特性が仕事にどう影響しているのか、メカニズムを紐解きます。
1. ワーキングメモリ(脳のメモ帳)の弱さ
ADHD(注意欠如・多動症)の人に多く見られるのが、ワーキングメモリの機能低下です。
ワーキングメモリとは、一時的に情報を記憶し、処理する能力のこと。「脳内の作業テーブル」とイメージしてください。
- 定型発達の人:
作業テーブルが広く、複数の指示(電話を受けながらメモを取り、スケジュールを確認する)を同時に置ける。 - 特性がある人:
作業テーブルが極端に狭い。新しい指示(電話)が来ると、前の指示(メモ)がテーブルから落ちてしまう。
これが、「さっき言ったよね?」と言われても、本当に記憶から消えてしまっている原因です。
2. 聴覚情報処理の苦手さ(APD/LiD)
「耳は聞こえているのに、言葉として入ってこない」という状態です。ASD(自閉スペクトラム症)の方によく見られます。
- 雑音の中で上司の声が聞き取れない。
- 口頭指示だけの会議だと、内容が右から左へ抜けていく。
3. 「不注意」と「過集中」のアンバランス
- 不注意: 細かい数字のチェック漏れ、メールの誤送信。
- 過集中: 一つの作業に没頭しすぎて、他の優先業務(会議の時間など)を忘れる。
あなたはどのタイプ?「ミス」の傾向チェックリスト
| ミスの種類 | 考えられる特性 | 典型的なシーン |
|---|---|---|
| ケアレスミス | ADHD(不注意) | メール添付忘れ、入力ミス、確認漏れ |
| 指示忘れ | ADHD(ワーキングメモリ) | 「あれやっといて」を数秒後に忘れる |
| 臨機応変不可 | ASD(こだわり) | マニュアル外の対応でフリーズする |
| 空気読み失敗 | ASD(社会性) | 報告のタイミングが悪く怒られる |
【実践編】「仕事が覚えられない」を解決する7つのハック

「覚える」ことを諦め、「記録する」ことに全振りしましょう。記憶力に頼らない仕組み作りがカギです。
1. メモは「書く」のではなく「撮る・録る」
手書きメモが追いつかない、字が汚くて読めない場合は、デジタルツールを頼ります。
- スマホ撮影:
ホワイトボードや画面は、許可を得てスマホで撮影。 - ボイスレコーダー:
「聞き漏らしが怖いので録音させてください」と上司に伝え、会議を録音。最近はAIで自動文字起こしできるアプリ( AI自動文字起こしサービス【Notta】)が優秀です。
2. 「指示受け」のテンプレートを作る
指示を受ける際、何を聞くべきか分からなくなるのを防ぐため、以下の項目をあらかじめノートに書いておき、埋める形式にします。
3. 指示は「復唱」して「視覚化」する
指示を聞き終わったら、必ずオウム返し(復唱)をします。
「~という認識で合っていますか?」と確認することで、認識のズレを防ぎます。可能なら、その場でメールやチャットで「先ほどの指示内容をまとめました」と送り、証拠(ログ)を残しましょう。
【実践編】「ミスばかり」をゼロに近づける5つの防壁

ミスは「注意」では防げません。「仕組み」で防ぎます。
1. 「ダブルチェック」ではなく「時間差チェック」
自分で直後にチェックしても、脳は「正しい」と思い込んでいるため間違いに気づけません。
- 時間を空ける:
1時間後、あるいは翌朝に見直す。 - 媒体を変える:
モニターで作成した資料は、紙に印刷してペンでチェックする、または読み上げソフトで読み上げさせて「耳」で確認する。
2. 独自の「マニュアル・手順書」を作る
会社のマニュアルが分かりにくい場合は、自分専用の「超具体的な手順書」を作ります。
- スクリーンショットを多用する。
- 「ここで保存ボタンを押す」など、当たり前の動作も省かずに書く。
- 一度ミスした箇所は、赤字で「★ここで過去にミスあり!注意」と追記する。
3. タスクの「スモールステップ化」
「資料作成」という大きなタスクだと、何から手をつけていいかフリーズします。
- 過去の資料を探す
- フォルダを作る
- 見出しを作る
- データを入れる
…と、これ以上分解できないレベルまで細分化し、一つずつ消し込んでいきます。
4. 集中を阻害しない「環境調整」
- ノイズキャンセリングイヤホン: 周囲の雑音が気になる場合(可能な職場であれば)。
- 耳栓(デジタル耳栓): 人の声は聞こえるが、環境音だけカットするものも有効。
- デスクの整理: 視界に入る情報を減らすため、今の作業に関係ない書類は引き出しにしまう。
もし「向いていない」と感じたら?キャリアの選択肢

対策をしても改善せず、心身に不調(不眠、うつ状態)が出ている場合は、環境を変える勇気も必要です。
1. クローズ就労 vs オープン就労
- クローズ就労(一般枠): 障害を開示せずに働く。給与水準は高いが、配慮は受けにくい。
- オープン就労(障害者枠): 障害を開示して働く。業務内容や勤務時間に配慮が得られるが、職種が限定される場合がある。
2. 支援機関を活用する
一人で抱え込まず、プロに相談してください。無料で使える公的な支援先があります。
- 地域若者サポートステーション(サポステ)
- 発達障害者支援センター
- 就労移行支援事業所: スキル習得から就職活動、定着支援までサポート。
- ジョブコーチ(職場適応援助者): 職場に訪問し、業務の調整を行ってくれる制度。
3. 自分に合った「適職」を探す視点
発達障害の特性は、裏を返せば「才能」です。
- ADHDの強み:
行動力、発想力、瞬発力 → Webデザイナー、営業、企画、調理師など変化のある仕事。 - ASDの強み:
正確性、規則性、没頭力 → プログラマー、経理、データ入力、校正、研究職など。
まとめ:あなたは「ダメな人」ではない。自分専用の「取扱説明書」を作ろう

仕事が覚えられない、ミスが続く。それはあなたの人間性の欠陥ではなく、「脳のOS」と「職場のアプリ」の相性が悪いだけかもしれません。
- 特性を知る: ワーキングメモリや注意機能の弱さを認める。
- ツールを使う: 記憶ではなく記録に頼る。デジタルツールを駆使する。
- 環境を選ぶ: どうしても合わないなら、特性が活きる場所へ移動する。
まずは今日、一つでいいので「新しい対策(ボイスレコーダーを試す、チェックリストを作る)」を始めてみてください。小さな成功体験が、失いかけた自信を取り戻す第一歩になります。
【情報の取り扱いに関するご注意】
この記事で紹介した相談窓口や公的制度に関する情報は、2026年1月時点のものです。ご利用の際は、お住まいの自治体や各機関の公式サイトにて最新の情報をご確認ください。また、この記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。心身の不調を感じる場合は、速やかに専門の医療機関にご相談ください。
記事監修: 平川病院 産業医・発達障害専門医



