合理的配慮とは、障害のある人が働くうえでの困りごとを取り除くために、事業主が行う調整のことです。特別扱いでも、お願いごとでもありません。障害者雇用促進法により、事業主には合理的配慮を提供する義務があります(過重な負担となる場合を除く)。
そして誤解されがちな点を先に書きます。「合理的配慮が義務化されたのは2024年4月」と報じられましたが、あれは雇用以外の分野の話です。職場の合理的配慮は、2016年4月からすでに義務です。今日、あなたが職場に配慮を求めることには、10年前から法的な根拠があります。
この記事では、厚生労働省の指針に載っている具体例と、実際に上司へ伝えるときの文例をまとめます。
合理的配慮とは何か

合理的配慮は、障害のある人から申し出があったときに、過重な負担にならない範囲で、事業主がその求めに応じて行う調整を指します。
大事なのは次の3点です。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 誰が始めるか | 原則として本人からの申し出がきっかけ。会社が察してくれるのを待つ仕組みではない |
| 何をするか | 業務の遂行を妨げている障壁を取り除く調整。仕事内容そのものを免除するものではない |
| どこまでやるか | 事業主に過重な負担が生じない範囲。負担が重い場合は代替案を話し合う |
「配慮」という言葉から親切心のように聞こえますが、実態は業務が回るようにするための環境調整です。会社側にとっても、ミスや離職を減らすための仕組みです。
【誤解が多い】職場の合理的配慮は2016年から義務です

2024年4月、「合理的配慮の提供が義務化されました」というニュースが広く流れました。このため「職場の配慮も2024年から義務になった」と理解している方が多いのですが、正確には違います。
日本では、合理的配慮を定める法律が2つあり、適用される場面が分かれています。
| 障害者雇用促進法 | 障害者差別解消法 | |
|---|---|---|
| 適用される場面 | 雇用の場面(募集・採用・採用後) | 雇用以外(店舗、行政サービス、学校など) |
| 事業者の義務化時期 | 2016年4月1日から義務 | 2024年4月1日から義務(それ以前は努力義務) |
| あなたが職場で使うのは | こちら | ― |
つまり、働く場面での合理的配慮は10年前から事業主の義務です。「まだ新しい制度だから会社も対応できないのでは」と遠慮する必要はありません。
なお2024年4月の改正は、お店や施設など雇用以外の場面で事業者の義務が強化されたものです。こちらも重要な変化ですが、職場の話とは別建てだと理解しておくと混乱しません。
障害者手帳や診断がなくても頼めますか

手帳がなくても対象になり得ます。
障害者雇用促進法の合理的配慮は、障害者手帳の所持を条件としていません。実務上は、会社に障害があることを伝えている(オープンにしている)ことが前提になります。
ただし現実には、次のような差があります。
| 状況 | 合理的配慮の求めやすさ |
|---|---|
| 障害者雇用枠で働いている | 求めやすい。配慮を前提とした採用のため |
| 一般雇用枠だが会社に伝えている | 求められる。診断書があると話が具体化しやすい |
| 会社に伝えていない(クローズ) | 法律上の合理的配慮としては求めにくい。業務改善の提案という形になる |
クローズで働いている場合、「障害への配慮」ではなく「業務効率化の提案」として同じ内容を求めるほうが現実的なことがあります。この記事の後半の文例は、その形でも使えるように書いています。
→ 発達障害は障害者雇用と一般雇用どっちがいい?オープン・クローズの違いと選び方
発達障害の合理的配慮の具体例

厚生労働省の合理的配慮指針には、障害種別ごとの事例が示されています。発達障害については次のようなものが挙げられています。
募集・採用時
- 面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
採用後
- 業務指導や相談に関し、担当者を定めること
- 業務の優先順位や目標を明確にし、指示を一つずつ出すこと
- 作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成すること
- 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
困りごと別|何を頼めばいいかの対応表
指針の例は抽象的なので、実際の困りごとに置き換えます。自分に当てはまる行から選んで使ってください。
| 困っていること | 頼む内容 |
|---|---|
| 口頭で言われた指示が抜ける | 指示をチャットやメモなど文字でもらう |
| 複数の仕事を同時に振られると混乱する | 優先順位を明示してもらう/一度に渡すタスクを絞ってもらう |
| 「適当にやっといて」がわからない | 完成イメージ・期限・分量を具体的な数字で示してもらう |
| 電話対応でパニックになる | 電話業務を他の業務と交換してもらう |
| 職場の音・光がつらい | 耳栓やイヤーマフの使用許可/席を壁際や静かな場所へ変更 |
| 予定変更に強く動揺する | 変更が生じたら早めに知らせてもらう |
| 締め切りを忘れる | 定例の進捗確認の場を設けてもらう(週1回15分など) |
| 通院で休みが必要 | 通院日の時間単位の休暇取得/シフトの配慮 |
| 疲れやすく夕方に集中が切れる | 休憩の取り方を調整(短い休憩をこまめに) |
| 何を相談していいかわからない | 相談担当者を1人決めてもらう |
なお、厚生労働省は「障害者への合理的配慮好事例集」(令和7年9月)を公開しており、ADHDやアスペルガー症候群を含む実際の企業事例が掲載されています。内閣府の「合理的配慮サーチ」でも発達障害の事例を検索できます。会社側に「他社ではこうしている」と示す材料として使えます。
「過重な負担」で断られることもある

合理的配慮は無制限ではありません。事業主に過重な負担が生じる場合は、提供しなくてよいとされています。
判断されるのは、費用、事業への影響、企業の規模や財務状況などです。たとえば「専用の個室を用意してほしい」は、小規模な会社では過重な負担にあたる可能性があります。
ただし重要なのは、過重な負担を理由に断る場合、会社はその理由を説明し、代替案を話し合うことが求められるという点です。「無理です」の一言で終わらせてよいわけではありません。
配慮を求めるときは、「これができないなら、こちらでも構いません」と代替案を自分から用意しておくと、話がまとまりやすくなります。
伝え方のテンプレート

配慮を求めるとき、最も失敗しやすいのは「つらいので配慮してください」という伝え方です。相手が何をすればいいかわからないため、動きようがありません。
4つの要素で組み立てる
- どんな場面で(状況を特定)
- 何が起きるか(結果を具体的に)
- 何をしてほしいか(相手の行動を1つに絞る)
- それによってどうなるか(会社側のメリット)
避けたい伝え方
「発達障害があって、マルチタスクが苦手なんです。配慮をお願いできませんか」
診断名と苦手なことは伝わりますが、上司は何をすればいいかわかりません。
組み立て直した伝え方
「朝礼で複数の作業を口頭でまとめて指示されると、後半の内容が抜けてしまうことがあります(①②)。指示をチャットに一行ずつ書いていただけないでしょうか(③)。確認しながら進められるので、やり直しが減ると思います(④)」
同じ依頼でも、上司が今日から実行できる形になっています。
コピーして使える文例
メール・チャットで申し出る場合
お疲れさまです。業務の進め方について1点ご相談させてください。
現在、【いつ・どの場面】で【何が起きるか】という状況があります。
そこで、【してほしいこと】をお願いできないでしょうか。
これにより【期待できる結果】が見込めます。
もし難しい場合は、【代替案】でも対応可能です。
一度お時間をいただけますと幸いです。
面談で切り出す場合
業務を進めるうえで工夫したい点があり、ご相談の時間をいただきました。
【場面】で【困りごと】が起きています。
【依頼内容】をお願いできると、【メリット】につながると考えています。
すぐに難しければ、まず1か月試させていただく形でも構いません。
「まず試す」という提案は通りやすいので、覚えておくと役立ちます。会社側も恒久的な変更より判断しやすいためです。
話し合いが進まないときの相談先

申し出ても対応してもらえない、話し合いにならないという場合、外部の窓口があります。
| 相談先 | 特徴 |
|---|---|
| ハローワークの専門援助部門 | 雇用分野の相談窓口。企業への助言も行う |
| 都道府県労働局(雇用環境・均等部/室) | 障害者雇用に関する紛争解決の援助・調停を行う |
| 地域障害者職業センター | ジョブコーチが職場に入り、本人と会社の間を調整する |
| 就労定着支援 | 就労移行支援を経て就職した場合に利用できる。支援員が会社と本人の間に入る |
とくにジョブコーチ(職場適応援助者)は、本人が言いづらいことを代わりに整理して伝えてくれる制度です。1人で会社と交渉する必要はありません。
配慮を求めても状況が変わらず、体調に影響が出ている場合は、環境を変える選択肢もあります。
→ 発達障害で「仕事に行きたくない・辞めたい」時の処方箋
→ 【徹底比較】障害者向け転職エージェント おすすめ12選
学校での合理的配慮

学校の合理的配慮は、障害者差別解消法にもとづくものです。国公立学校は以前から法的義務、私立学校は2024年4月から法的義務になりました。
内容の例としては、板書を写真撮影する許可、試験時間の延長、別室受験、タブレット等の使用許可、口頭指示に加えた文書での指示などがあります。
申し出先は担任や特別支援教育コーディネーターです。本人・保護者と学校が話し合って決めるという手順は、職場の場合と同じです。
よくある質問

Q. 合理的配慮とは簡単に言うと何ですか?
障害のある人が働いたり学んだりするうえでの障壁を取り除くために、事業者や学校が行う調整のことです。本人からの申し出をきっかけに、過重な負担にならない範囲で提供されます。
Q. 職場の合理的配慮はいつから義務ですか?
雇用の場面については、障害者雇用促進法により2016年4月1日から事業主の義務です。2024年4月に義務化されたと報じられたのは、障害者差別解消法にもとづく雇用以外の分野の話です。
Q. 障害者手帳がなくても合理的配慮を求められますか?
手帳の所持は条件ではありません。ただし会社に障害を伝えていることが前提になります。伝えていない場合は、業務改善の提案という形で同じ内容を求めるほうが現実的です。
Q. 配慮を求めたら評価が下がりませんか?
障害を理由とした不当な取り扱いは法律で禁止されています。ただし不安がある場合は、いきなり大きな変更を求めるより、「1か月試す」といった小さな提案から始めると受け入れられやすくなります。
Q. 会社に断られたらどうすればいいですか?
過重な負担を理由に断る場合、会社には理由の説明と代替案の話し合いが求められます。話が進まない場合は、ハローワークの専門援助部門や都道府県労働局に相談してください。
Q. どんな配慮を頼めばいいかわからないときは?
自分の困りごとを場面ごとに書き出すことから始めてください。本記事の「困りごと別の対応表」から近いものを選ぶ方法もあります。就労移行支援では、この整理を支援員と一緒に行えます。
まとめ

- 合理的配慮は特別扱いではなく、事業主の法的義務(過重な負担となる場合を除く)
- 職場の合理的配慮は2016年4月から義務。2024年4月に義務化されたのは雇用以外の分野で、別の法律にもとづく
- 障害者手帳がなくても対象になり得るが、会社に伝えていることが前提
- 厚労省の指針には、担当者を定める・指示を一つずつ出す・マニュアルを作る・通院に配慮する等の例が挙げられている
- 伝えるときは「どんな場面で/何が起きるか/何をしてほしいか/どうなるか」の4要素で組み立てる
- 「まず1か月試す」という提案は通りやすい
- 1人で交渉する必要はない。ジョブコーチや就労定着支援が間に入れる
配慮は、我慢の限界が来てから求めるものではありません。今の職場で試せることが残っているうちに申し出るほうが、選択肢は多く残ります。
何を頼めばいいか整理できない、会社にどう切り出せばいいかわからない——そう感じたら、就労移行支援や転職エージェントで一緒に整理できます。
- 訓練を受けながら整理したい方 → 【2026年最新】就労移行支援おすすめ10選
- 配慮が得られる職場へ移りたい方 → 【徹底比較】障害者向け転職エージェント おすすめ12選
- そもそも自分の特性を整理したい方 → 発達障害の種類一覧|ASD・ADHD・LDの違いを図解でわかりやすく解説
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談・労務相談に代わるものではありません。記載した法令・制度の内容は2026年7月時点の情報です。合理的配慮の内容は個々の状況により異なり、最終的には本人と事業主の話し合いによって決定されます。労働紛争に発展している場合は、都道府県労働局または弁護士にご相談ください。

